「好きなことを仕事にする」ことは「本当にそれが好きか」が問われるということだ(そして気づいたときにはだいたい遅い)[2]

これの続き。

そんなわけで某出版社から「採用の予定はない短期アルバイト」の打診があった。

ちょうど当時やっていた飲食のアルバイトも飽きてきたところだったし、業界が垣間見れる!的な安易な気持ちでバイトをすることにした。


時は大学3年の終わりの3月。場所は四谷。住んでいたのは葛飾区。

たしか月~金の10時~18時とかフルに入ることになった。

やることは編集の雑用と書店からかかってくる電話注文の応対。

編集の雑用は、装丁家のところへ色校を届けたり逆に引き取ったり、まれに作家の自宅やホテルにゲラを届けたり引き取ったり。新聞の連載小説のコピーをとったり、国会図書館や日比谷図書館、書店で資料となる書籍を探したり。はじめはバイトも一人しかいなかったから何でもかんでも言われるがままにやった。

書店からの電話注文はそれぞれの書籍の在庫を確認しながら受けられるかどうかを答えて、注文を受ける場合には「番線」やらなんやらを聞く。

そんな毎日。それまで学校もほとんど行っていない、リクガメみたいな生活していたからしんどかったとは思うけれど、それ以上に刺激的だった。本が作られていく工程を間近に見られるうえ、自分が読んだことある作家にじかに会えたりもした。何だか急にまわりの友達よりも大人になった気がして、つらくはなかった。


もうひとつ、ラッキーだったのは社長に気に入られたことだ。これはもうたまたまなんだけれど、自分が好きだったアーティストや作家を育てたような人で、他社から取材を受けるような人だった。今の岡崎体育のようにどはまりする傾向にある自分は得られる情報をなんでも入れていたので、知っていることをペラペラしゃべったら「お前おもしろいな」となった(脈絡おかしいけど雰囲気で感じてね)。

さらに、小説を書いていることが伝わると、「読ませろ」と。正直嫌だったけど、こんな機会もないかとそのとき書いてた原稿用紙200枚くらいのやつを渡した。タイトルが『告白』だったのは覚えてる(これは恥ずかしい)。

「お前は##(その会社のエース的編集者)と同じだ。あいつも俺が小説読んで『編集者向きだ』って言って、そうなった」

翌日開口一番に言われたのがこれ。「あー、やっぱ才能ないのかー」という以上に「##さんと同じ!!!」ってテンションがめちゃくちゃ上がった。


とにかく、他の社員の人たちにもかわいがってもらえて、いつの間にか1~2カ月の予定がうやむやになり、4年生の1年間をほぼまるまるフルタイムでバイトすることになる。

途中から制作進行の部署の補助もやることになった。そのタイミングで今考えてもバカみたいな量の本を同時刊行することになり、バイトの自分も連日徹夜した。時給わずか700円なのに、ひと月で30万円以上もらったこともある。どのくらい働いていたかがわかる。今の数倍は間違いない。


そんな嵐のような時期を越えたころ、常務に声をかけられる。

「ちゃんと卒業したら、お前を採るから」

実際採ってくれたらいいなとは思っていた。就職活動も全然していなかったし、できるほどの時間もなかった。ただ、バイトしてから知ったのは、その会社が今まで一人も一般的な新卒採用をしていなかったということ。だからちょっと厳しいのかなと思っていた。じゃあ、どうしようと思っていたのか。今は思い出せない。多分何も考えていなかったんだろう。

だからうれしかった。その頃には複数人の学生アルバイトがいたけれど、そんなふうに言ってもらえたのは自分だけだったし、「俺は編集者向きと評価されてるんだ」と舞い上がった。

とにかく卒業はしなきゃということで、バイトを少しセーブさせてもらって学校に行くようにした。その甲斐もあって、1単位のあまりもなく必要最小単位で大学は卒業できた。そして、約束通りその出版社に入社させてもらった。入社と同時に、自分は書籍編集者になったんだ。


つかれたので続く

いろんな意味で通ってないとこ。

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